本屋大賞を受賞したり、作品が映画化されたりと数々の名作を残している瀬尾まいこ。
彼女は血のつながっていない年下のお兄さんが登場したり、3人の親がいる女子高生の生活を描いたりとちょっと変わった家族を描いていることが多いが、今回紹介する作品の登場人物もちょっと複雑な家族関係を持っている。
それは25年間1度も会ったことのない血のつながった父親と息子 だ。
今回も新たな形で家族を思いやる気持ちが垣間見える作品となっていた。
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こんな人におすすめ
★極力人の関わりを避けて生活してきた方
★最近両親または子供と疎遠になっている方
★コミュニケーションとるのが苦手と感じている方
瀬尾まいこ『傑作はまだ』あらすじ
小説家として生活している50歳の中年男性・加賀野が主人公。
加賀野の元に1度も会ったことのない血のつながった25歳の息子・智が現れる。
智はバイト先のローソンに近いということで加賀野の家に突然住みはじめた。
加賀野は小説家として駆け出しの20代前半に飲み会で出会った美月と酒の勢いで好きでもないのに関係を持ってしまった。
その一晩だけで美月は妊娠をしてしまったが、話し合いするうちに性格が合わないとわかり、2人は結婚せず、美月が智の親権を持ち、加賀野は毎月養育費だけ払い、25年間1度も会うことはなかったのだ。
家族以外にも人との関わりを持って来なかった加賀野。
智が住みはじめたことにより加賀野は知らなかった外の空気、人の温かさに触れるようになる。
加賀野のことは「お父さん」と呼ばず「おっさん」と呼ぶ智だが、決して嫌ってる様子はない。
なぜ急に父親に会いにきたのか、美月はどのように育てたのか。
淡々とした内容の小説ばかり書いてきた加賀野の考えも家族、人との交流により徐々に影響されていく。
瀬尾まいこ『傑作はまだ』おすすめポイント
★登場人物の温かさ
瀬尾まいこ作品どれも言えることだが、登場人物みんな温かい人柄 のキャラクターばかり。
今作も例外にもれず。
25年間自分に会いに来なかった加賀野のことは智は憎んだりせず、素直でまっすぐな子に育ったようだ。
流行や世間について知らない加賀野に智はいろいろ教えて手助けしたりしている。
毎月養育費を払う以外父親らしいことをしてこなかった加賀野も智に直接会って不器用ながらも智の好きな食べ物買ってきたり心配したりしている様子が描かれている。
20年近く会っていなくても思い合う親子関係が作れるっていいなと思った。
智が加賀野の家にやってきた本当の理由を知ったとき、あなたも感動するはずなのでぜひ最後まで読んでほしい。
★外の世界
「人と関わらなくても生活していける」
そう考えていた加賀野の心境の変化も今作の見所だ。
今まで面倒だと思っていた地域の役員に智のせいで入ることになった加賀野だが、20年関わって来なかったにも関わらず近所の人たちに温かく受け入れてもらえる。
今まで用意したことなかった来客用のスリッパを用意しようと考えるぐらい加賀野が人との交流が増えていったのだ。
智が不幸になる展開の小説ばかり書く加賀野にある質問してからのこんなやり取りのシーンがある。
「ねぇ、おっさん、目の前でばあさんがこけそうになったらどうする?」
「そりゃ、支えようとするけど」
「だろ。誰かが危ない目に遭いそうなら、そこに向かおうとするのはそんなに珍しいことではない」「そうだろうか」
「そうだよ。現実の世界は小説よりもずっと善意に満ちている。」
これは外の世界に閉ざしてしまっている人の心を開かせるようなやり取りだと思う。
外に出るといろいろ悩みは絶えないけれど、外に出れば人の親切、思いやりにも触れることができる。
今作でも加賀野は智の職場の上司や近所の森川さんの温かさにも触れている。
もし、外の世界に傷ついて心閉ざしている人がいたら、手を差しのべてくれる人も実はたくさんいる ことを今作を読んで知ってほしい。
まとめ
人は何歳になっても変わることができる。
25年間誰とも交流して来なかった加賀野の変化を見てるとそう思えてくる。
そしてどんな境遇でも案外みんな受け入れてくれるものなのだ。
家族、友人など疎遠になっているけど距離を縮める勇気がないあなたの背中を押してくれる作品である。